天使の恋(13)
「俺がやってやりゃいいんだろ? それで何もかもしっくりうまくいくか?」
俺が武を抱けば、武は不特定多数の男に躰を売り歩くことなく、新しい生活を始めることが出来るのか?
俺は力任せに武の服を剥ぎ取って、その胸板に鼻先を埋めた。貪りつくように舌と唇をなぞらせて、数時間前まで誰が触れていたかも判らない武の肌を嘗め回した。
「……っ、ひびき」
時計の針の音だけが響く夜の暗闇の中、廊下の壁に背を打ちつけた武の体中を掌で弄る。
「んぁ、ッ……ひび、きっ……ひびき、ィっ」
抑え付けられた武の体は廊下から足の裏を僅かに浮かせて、爪先を震わせている。俺がその足を抱え上げると、武は崩れ落ちそうな躰を俺に凭れさせるしかなくなった。
ズボンを引き下ろし、武の尻だけを剥き出しにさせると俺は双丘の間をお座成りに触った。どうせさっきまで名前も知らないような腐れオヤジの物を銜え込んでいたんだろうと思うと、とても丁寧に愛撫してやる気にはならなかった。
欲情というよりは怒りに任せて勃起した俺の肉棒を、その爛れた肉に容赦なく捻じ込む。
必死で身を捩る武の躰に、自分の躰を覆い被せて圧迫し、逃げ道を奪う。武が苦痛に顔を歪めても、その表情すら見る気はなかった。
廊下から足を浮かせ、体のバランスを崩している武の尻から楔を打ち込んで何の前置きもなく激しく腰を揺する。武の喉が大きく仰け反った。大きく唇を開き、喘ぐ。
「ヒっ、あ……ア、あッあ……! あぁっ、ア、あー……ッ」
既に言葉を失った獣のような武は俺の背中に爪を立ててしがみつき、全身を硬直させながら痙攣を繰り返した。思った通り武の中は熟れていて、俺の男根を甘く締め上げてくる。俺は武の尻を打ちながら深い挿入を繰り返した。
武の腹の高さから精が吹き出して、俺の寝間着をべっとりと濡らしていく。武は自分から腰をくねくねと回転させて俺から与えられる快楽を欲しがった。
「もう……っあぁっあ、ィ、イクっ・イっちゃう……ッあぁ、あア、ああっぁまたイっちゃ、あ」
がくがくと全身を戦慄かせながらよがる武の首筋を、俺はねっとりと舐め上げた。汗なのか、武がだらしなく滴らせた涎なのか、或いは誰かの体液なのか、武の肌はしょっぱかった。
「ひび……ッひびき、の、ぅ……ッイイ、すごいイイ――……っ!」
感極まったような嬌声。
それが今日はただひたすらに悲しくて、俺は耳を塞ぎたくなった。だけどそれに反して俺は武をもっと深く、もっと激しく貫く。
絶叫にも似た喘ぎ声は、俺が武の中に大量の濃い精液を注ぎ込むことで最高潮に達した。それまで何度もイキ狂っていた武は、声を嗄らし、失神でもするんじゃないかというほど大きく痙攣した。
「あぁ、……っイイ、いい・っよぅ……ひびき、の……」
どくどくと放出される俺の白濁を身の内に受けながら、武は恍惚とした表情で言った。
ゾッとした。
こいつはただの好色なんだ。ゼックスには技術以外の何も求めていないんだ。
俺は武を一旦床に下ろし、崩れ落ちた武の汚れた躰を廊下に伏せさせた。その下肢を掴んで、引き寄せる。
「――っ!」
振り返ろうとする武の双丘を片手で割る。赤く色付き、菊筋を捲り上がらせた様に膨らませている濡れた穴を見下ろした。精液が伝い落ちるのを止めるために、亀頭を宛がう。
「やっ……ひびき」
床に這いずりながら身を捩る武の膝を、床から浮かせるほど腰を抱え上げた。ぬるり、と俺の肉棒は何の抵抗もなく武の尻穴に吸い込まれていった。
「や、ひびき・駄目っ」
武が床の上を掻いた。怒張を突き入れると、俺が見下したその結合部からは俺が吐き出したばかりの汁がどぷっと溢れ出して来た。或いは、俺以外の男のものも混じっているのかも知れないが。
「だ、ァっ……めぇ・ッひびき……!」
「どうしてだ? 最後にセックスしてから何日経つと思ってるんだ。まだまだヤれるはずだろう? 先刻からイキまくってんのはお前だけだ」
武が自分の躰を商品としてしか扱わないなら、俺だってそうする。じゃないと、馬鹿みたいだ。俺は武を支えることなんて出来ない。だったら好き放題やらせてもらうさ。
「……やだ、ひびきッ」
武は細い髪を振りかぶって、いやいやと首を振った。
「何が嫌なんだよ、今更。俺は当然の支払いを要求してるだけだ」
ぬかるんだ尻に深々と埋め込んだ腰を、一度大きく引く。武の背中が戦いた。間を置かず、再び肉を弾けさせながら乱暴に貫いた。武が甲高い声を上げ、床の上でのたうつ。
「あ・ッ……ああァあ――ッあ、ああ、」
大きなピストンを連続して何度も与えた。カリ首に掻き出され、また捻じ込まれる白濁は徐々に粟立ち、白色を増して俺と武の間に粘っこい糸を引いた。
「ああッあ、ア……! あ、アあ、あっヒ、びきッ……ひびき……っ・ひ、ぁ……もう、もう駄目ッ・だめなのぉっ」
武がどんなに泣き叫んでも、俺は武の柔肉を抉るように突き上げるのを止めなかった。武の宙ぶらりんになった足は緊張し、何度も無為に虚空を蹴る。
室内に武の掠れた嬌声と、ぢゅぷぢゅぷと俺が武の尻を穿りかえす音だけが幾重にも重なって反響する。武が伏せた廊下には勢いよく、武の精液がまた飛び散っている。
「ひびッ……もう、っ・もう許して……ぇっ、お願い、だから……もう、……っもう、駄目、ぇえッ
あぁ、あ、あぁっ! そんなに、そんなにしちゃやだ、ぁ・ッあ、ア――……!」
武の引き攣った声を聴きながら、頭のどこかで、おかしい、と感じ始めていた。
回数をカウントして、これ以上は宿泊してませんという理由をつけ拒んできた筈の武が、まだ一回しか達してない俺を――無理やり犯しているのだとは言え――こんなふうに執拗に嫌がるなど。
しかし俺はその時武を犯すことに夢中で、自分の中の残虐性に掻き立てられるように武の尻にぴたりと腰を密着させ、滅茶苦茶に下肢を震わせた。
「もう・やだぁッ、やだ、……ああぁあアあ、ぁ――……ッ! 駄目、もう駄目なのにっ・ィ……あぁっア、また……またイっちゃう、ゥ……! もう許してぇ……ッ」
嗚咽にも似た声で俺に懇願しながら、武はまた水のような精液を噴き上げ、四肢を痙攣させた。
「何だよ、骨まで蕩けちゃいそうなくらい感じてるんだろ? イイんじゃねぇのか……こんな風にズコズコ犯られんのが」
吐き捨てた俺の言葉に武の返事はなかった。
まだ、夜は明けそうにない。