荒野の野良犬(16)
大学に進学すると、経済学部を専攻した。
高校の教師たちは一様に複雑な表情で柳沼の卒業を祝ってくれた。関東では最高峰の大学名に文句はないのだろうが、理Ⅲだ文Ⅰだと言っていた柳沼が突然ランクを下げたように感じたのかもしれない。
自分たちの名誉のために柳沼の名前を利用したかった教師たちにとっては、大学で学びたいものを学ぼうとする柳沼の気持ちは理解できなかったようだ。
「それでも、経済学部の内じゃトップでしょう」
労せず私学を合格した宇佐美が柳沼のフォローをしなければ、教師たちは柳沼にどうして経済なんだと問い詰めていたかもしれない。
適当な嘘を吐くことは容易い。
でももうこの退屈な高校生活とも縁が切れるのかと思うと全てを話してしまいたい衝動にも駆られた。
能城と一緒に行動するようになってから、柳沼はずっと気持ちが高揚していた。時折ひどい倦怠感で動くことも億劫になることがあるが、それでも能城からの誘いに応じるとたちまち気分が楽になった。
「能城さんは不思議な人だよ」
宇佐美もそう言って笑った。
例の怪我が完治して学校に戻ってきた宇佐美に聞いた話では、あの時宇佐美を助けに駆けつけてくれたのが能城だったということだ。あの件のおかげで宇佐美が暴力団に興味を失ってしまうかもしれないと考えていたのが馬鹿みたいに、宇佐美も能城に傾倒していた。命の恩人だと思えば、当然のことだ。
しかし宇佐美には保守的な両親がいて、帰る家がある。そのせいで能城と食事を一緒にするのはもっぱら柳沼の方だということに、宇佐美はわざとらしく拗ねて見せていた。
もしかしたら半分以上は本気だったのかもしれない。能城は柳沼が大学を卒業した後に茅島の抱える茅英組へ籍を入れる段取りを着々と練ってくれたが、宇佐美に対しては松佳に迎えるということも、他の用途も考えられていないようだった。
自分は必要とされている。柳沼はそう感じた。
内藤や宇佐美から信頼も篤く、野心に満ち溢れた立派な大人の能城に認められている。既に大勢の仲間を率いている内藤でも、家族にも友人にも恵まれていながら彼らを欺く能力に長けた宇佐美でもない、柳沼を。
だから能城の野心に必要があるかもしれないと感じれば経済学に四年を費やすことも躊躇いがなかった。
誰からも認められる高学歴なんて、ただ一人に必要とされるスキルの前では無力だ。
『柳沼か』
大学生活を謳歌することもなく、合理的に単位を取得することに毎日を費やす中で、久しぶりに内藤からの連絡があったのは、蒸し暑い、梅雨の季節だった。
「ご無沙汰しています。……何かありましたか?」
高校を卒業して以来、内藤とはますます疎遠になっていたが避けているつもりもなかった。世話になったことは確かで、また何か力になれることがあれば努力を惜しむ気もない。
電話口で、内藤の声は焦燥しているように感じた。
ぴりぴりと緊張に満ちていて、柳沼に向けられた声にも棘がある。何かがあったことは明白だ。
内藤は柳沼の問いかけに、言葉を躊躇しているようだった。喉が鳴る音が、電話越しにも聞こえる。
「内藤さ、……」
『ツバメをどうした』
いつまでも黙り込んでいる内藤を促すように再び柳沼が口を開きかけた瞬間、内藤が静かに声を震わせた。
「ツバメ? ――どうした、って何かあったんですか」
ツバメには、あれきり会っていない。高校を卒業する前後で内藤の店に挨拶に行きもしたがツバメの姿はなかった。柳沼に飽きたのだろうと思えばこそ、探すことも、人に尋ねることもしなかった。
それを突然こんな調子で尋ねられる筋合いはない。
『二日前から行方が判らない』
内藤の声は地を這っているかのように低く、今までに聞いたこともないものだった。宇佐美が襲撃された時だってここまでではなかった。
内藤とツバメがどんな関係だったのかは知らない。興味もない。
「僕はその前からずっと、彼女の動向なんて知りませんよ」
『もうずっと、様子がおかしかったんだ!』
悲痛にも聞こえる内藤の怒鳴り声が、携帯電話を震わせて柳沼の声を掻き消した。
思わず耳を遠ざけた柳沼が眉を顰めても、内藤には見えようはずもない。
『二年、……三年かけてやっと薬が抜けてきたと思ってたんだ、……それなのに、あいつまた……いつから始めたのかは知らねぇ、ただ、前よりずっとハマってるみたいで、……』
内藤の辛気臭い声を聞きながら、柳沼は電話機を掌で押さえることもせずに溜息を吐いた。
ツバメが薬をやっていたことは初めて会った時から知っていた。薬を断っていたのか、まだ続けているのかは判らなかったが。
それは彼女自身の問題で、内藤が仲間思いであるがゆえに心配していることも判るが、柳沼には知ったことじゃない。ツバメ自身が決めたことなのだし、ましてやツバメの行方など知りようもない。
『腕を切るのもまたやり始めて、危ねぇ危ねぇとは思ってたんだ』
薬物中毒者がどんなものなのかも柳沼は知らない。彼女が腕を切るのは薬のせいではないのじゃないか。もちろん、理性で抑止できなくなっているのかも知れないが。
「内藤さん」
柳沼は眉間を指先で擦りながら妙に渇いた唇を押し開くようにして口を挟んだ。
今の内藤の話を聞く限りでは、内藤の方がよっぽどおかしい。そんなにツバメが心配ならば首に縄でもかけておけばいいし、何より柳沼は何も知らないと言っているのに。冷静な判断力を失っているようにしか思えない。
『チクショウ、何であいつ――あんなにもうやらねェって言ってたのに……』
「内藤さん」
内藤の電話はもはや独り言だ。柳沼が聞いてやる筋合いもない。
申し訳ないが、こんな無駄口を叩いている暇があったらチームの人間を動員して探して歩いた方がずっと良い。
『ツバメは!』
柳沼がアドバイスを続けようとした時、内藤の大きな声が再び響いた。
面倒くさい。
せっかく、昨夜も能城と食事をして気分がいいのに。こういう時は何をしても捗るから無駄なことに時間を割きたくない。
『――あいつ、柳沼に呼び出されたからって出て行ったんだ……!』
感情を堪えるように掠れた声。
内藤は電話口の向こうで泣いているのかと思うほど声を震わせて、柳沼に縋る思いで電話をかけてきたようだった。
『ネタが切れかけてて、何かに怯えるように怖い怖いってずっと言ってたのに……柳沼から電話がきた、久しぶりに会えるんだって、身体が辛いはずなのに、あいつ長袖を着て出かけて行ったんだよ、二日前に! お前何か知らねェのか!』
長袖。
柳沼の脳裏には、最後に会ったツバメが珍しく長袖を着ていたことを思い出した。あれは季節のせいかもしれないと思っていたが、今はもう充分暑い気候だ。長袖を着たのは、腕の注射痕や切り傷を隠すためだったのかもしれない。
「……、聞き間違いでしょう。僕は彼女に連絡などしていないし、彼女だってもう僕には興味も――……」
冷静でいるつもりが、心臓が高鳴る。息苦しいほどだ。
覚醒剤中毒の患者が、あるいは幻聴で柳沼からの誘いを受け取って出掛けたのだとしても、二日も行方が知れないというのはどういうことだ。急性中毒でどこかで倒れているのかもしれない。
「内藤さん、彼女は僕に会うって言って、どこに行ったんですか」
柳沼は携帯電話を耳に押し当てたまま、立ち上がった。そんなあてがあれば内藤だってもうとっくに向かっているのかもしれないが。それでも居ても立ってもいられずに玄関へ足を速めた柳沼の耳元で、内藤は声を詰まらせた。
「――……内藤さん?」
靴に足をねじ込み、耳を澄ませる。
内藤は息を殺して、涙を堪えているようだった。何か、ひどく悔いているようでもある。
数分待った後、内藤は絞り出すような声で答えた。
『……松佳一家の事務所だ』
組の人間に聞いてみたのかと問うと、内藤は重苦しい声で、聞いたけど何も知らないと言っている、と答えた。
柳沼が電話を切る直前、内藤はようやく落ち着きを取り戻したのか、涙に濡れた声ですまない、すまないと何度も謝った。
内藤が何を言いたいのか判らないでもない。
ツバメが松佳一家の事務所に行ったのは本当だろう。それもきっと、今回が初めてじゃない。
今は他にいくらでも入手ルートがあるといっても、やはり暴力団事務所での薬の入手は他より簡単そうに思える。
暴力団対策法のために薬の扱いを控えている組も多い、と柳沼に教えてくれたのは他ならぬ能城自身だが、松佳がどうかということまでは聞いていない。
内藤は、自分が松佳一家と手を組んだことでツバメをまた薬に触れさせてしまったと悔やんでいるのだろう。
今の内藤に、それは関係のないことだ、彼女自身の問題だといったところで大した慰めにはならない。とにかくツバメを見つけ出して、彼女が望むのであればしかるべき施設に入れるのが先決だ。
「失礼します」
都心に近い繁華街の一角、真新しいビルの最上階に、松佳一家の事務所はある。
これまで何度も潜ったことがある馴染みの木製扉を開くと、そこには誰もいなかった。
いつもなら電話番の若衆の一人や二人はいるはずだ。仮にも事務所と銘打って看板を掲げている以上、防犯の面でも誰もいないなんてことはあまり考えられない。警察のガサ入れでもあったなら話は別だが、そんな話は聞いていない。
「柳沼です。……誰か、いらっしゃいませんか」
一歩、二歩と事務所内に足を進めながら声を張る。まるで不法侵入をしているようで、あまり気分のいいものじゃない。
誰か留守番の一人でもいれば、ひとまずツバメのことを聞いて安心することができたのに。
「すみません」
一番大きな部屋以外は、あまり入ったことがない。机の並べられたオフィスのような部屋から、少なくとも三つの扉が見える。うち一つは、組長が事務所に来た時の部屋になっているという話だったが、その他は知らない。
あるいは留守番の担当がたまたま席を外しているだけなのか、柳沼が便所の方向に耳を澄ませようとした瞬間、別の部屋の扉から物音が聞こえた。
「!」
鈍い音を立てて、何かが倒れたような音だ。
ついで、笑い声。
扉に遮られて詳しくは聞こえないが、松佳一家の若衆が戯れ合っているような談笑の声らしきものも聞こえる。
「柳沼です、……すみません」
柳沼は躊躇なくその扉をノックすると、唇を寄せて大きく声を張った。
誰もいないのかと思って緊張していた気持ちが解ける。いつもの調子で挨拶をして、すぐに用事は済むものと思っていた。ツバメの行方が知れるならそれで良いし、もし知らなくても、能城に捜索を頼むことができる。
「柳沼?」
扉の向こうから、ようやく返事が返ってきた。
知っている組員のようだった。
「おう、何だ来てたのか。入れよ」
酒でも飲んでいたのか、呂律の回らない声と同時に目の前の戸が開かれた。中は暗い。こんな時間から酒盛りですかと挨拶をしようとしたが、室内の空気は篭って、ひどく饐えた匂いがした。
思わず掌で鼻口を覆う。
「柳沼くんか」
閉め切った室内に四、五人の人いきれと、香木か何かのわざとらしい匂い、それと能城の葉巻の香りが充満している。悪臭としか言いようのない濁った空気に、柳沼はその向こう側から能城の声がしても顔を顰めずにはいられなかった。
「……思ったより遅かったね」
能城は白く煙った室内の奥にいて、姿はよく見えない。
ただいつもより話すペースが遅く、どこか恍惚としたようにも聞こえた。
「柳沼も入れよ、ホラ」
扉開けてくれた組員が、口を覆った柳沼の腕を強引に引く。あまり気持ちの良い部屋とは言えない。引きずられるように足を縺れさせて渋々室内に入ると、能城は部屋の奥で広いカウチに腰掛けていた。
「すみません、突然伺って……急ぎの用事があったので、」
目の前を眩ませるような煙に一度緩く首を振ってから、能城の姿に目を凝らす。
カウチに浅く腰を下ろし、大きく両足を開いている能城の下肢に着衣はなかった。代わりに、人の頭が伏せられている。長い髪を乱れさせ、小柄な身体を四つん這いにして夢中で能城の股間を貪っている彼女は、柳沼が部屋に入ってきたことにも気付いていないようだった。
「――、ッ!」
ツバメ。
呼びかける声が喉に詰まって、出てこない。
室内には微かに音楽が流されていたが、それを掻き消すかのようにツバメは鼻を鳴らし、唾液の音を響かせて能城を悦ばせていた。
「急ぎの用事? どうかしたのかい? 君の頼みごとなら喜んで聞こうじゃないか。金か? それとも、――もうネタでも切れたのか?」
ツバメの頭に片手を伏せ、それをゆっくりと前後に動かしながら恍惚とした表情の能城が双眸を細める。
一歩、柳沼は足を引いた。
痩せ細ったツバメは頬いっぱいに能城を含みながら自身の指で自慰行為に耽っていた。室内に漂っていた饐えた匂いは、これか。
能城の周囲に控えた顔見知りの組員たちも、一様に半裸か、あるいは全裸で笑っていた。
「ネタ切れって、若頭。昨日キメてやったばっかりでしょう」
注射器を片手にした痩せぎすの男が、量少ないんじゃないですかと笑って、身体を揺らす。能城を相手にそんな砕けた態度を取る組員は今まで見たことがなかった。彼の腕には注射器の後が無数にあって、真新しいものからは血が滲んでいた。
口は常に半開きで、一度笑い始めてしまったら止まらないようだ。
「あー、勃ってきた勃ってきた勃ってきた」
大笑いしていたかと思うと、急に男根を扱き始めて、能城の隣を立ち上がる。
他の男たちも薬をやっているようだ。中には男同士で性器を触りあっている者もいる。
足を引きずって、後退する。柳沼の周りに漂う煙も、いつもとは違っているような気がした。能城に悟られないように視線を彷徨わせると、案の定部屋の隅で白い結晶を火にかけている者がいる。
「――ッんぁ、あっ……ぁあっあ、ゃっ……!」
猫のような甲高い鳴き声に視線を戻すと、立ち上がった男がツバメの、自慰に濡れた性器へ挿入をしていた。ツバメの意思など関係なく腰を押し付けたかと思うと、突然激しく揺さぶり始める。
能城を含んだままのツバメの声はくぐもっているが、気でも狂ったかのように悶絶し、全身をくねらせてよがっている。
目が眩む。
内藤の店で屈託なく笑っていたツバメが、まるで女という道具のように扱われている様子を目の当たりにして、柳沼は全身が戦慄いた。
「はぁっ、……あ、出る、出るぞ出る、っぁ、ぅア、あっ……!」
柔肉を捏ね繰るように腰を振っていた男が天井を仰いでひとしきり呻き声をあげていたかと思うと、やがて背筋をぶるっと震わせてツバメの中で射精した。
どくどく、と体内に注ぎ込まれていく様子を見ると、柳沼はまるでツバメと母親の姿がかぶるようで頭の中がかっと熱くなった。
この部屋にこれ以上留まっていたくはないのに、足が竦んだようになって動かない。
昨夜からろくに何も食べていないのに、胃液がこみ上げてくる。
気持ちが悪い。
「あーダメだ、収まんねぇ」
ずるり、と肉棒を引き抜かれたツバメの下肢は、とても一人分とは思えない量の体液が溢れ滴っていた。ペタン、とまたその場に腰を下ろして、能城の太腿に顔を埋めている。
もう、彼女には人格がないように見えた。
ここから連れて帰れば、それでもまた彼女は以前のように笑うようになるだろうか。彼女がここでこんな風にされていたと知って、内藤がどう思うのか知らない。内藤は能城と繋がることをあんなに嬉しそうにしていたのに。ツバメだって。
「抜き足りないなら柳沼くんに頼めよ。彼は女性が苦手だそうだ」
ツバメの背中で屹立したままの性器を弄っていた男に、能城が片手を擡げて柳沼を指した。
室内の視線が、一斉にこちらを向いた。
足を退く。
背中を、誰かに捕らえられた。
「ッ!」
慌てて振り払おうとすると、きつく腕を掴まれる。思わず声をあげそうになって唇を噛みながらその顔を振り返ると、尋常ではなく血走った男の顔が、そこにあった。いつか能城と一緒に食事もしたことのある、若い組員だ。厳しい顔つきではあったが礼儀正しい、いい男だった。
これが、裏の顔か。
能城の、そして松佳一家の。
「柳沼、あの娘を探しにきたんだろう。違うか?」
男の股間もまた、天を向いていた。身を捩って、扉に腕を伸ばす。もう一方の方を、別の腕に押さえられた。
「ほら、一緒に仲良く可愛がってやるよ」
無理やり身体を反転させられて振り返ると、さっきまでツバメの体内にあった男根が柳沼に迫っていた。
がむしゃらにその肩を、押し返す。全身が汗ばんで、急激に冷えていく。恐怖と嫌悪感で粟立ち、指先まで震えていた。
「今更可愛い子ぶるなよ、柳沼くん。女性が苦手だってことは、そういうことだろう? 女性じゃなければ相手は男しかいないんだから。初めてなのか? なに、大丈夫だよ。シャブと一緒にキメれば腰が抜けるほど気持ちのいいものだ」
何がそんなに可笑しいのか、ひときわ大きな声で能城が笑った。
屈強な男たちの腕に捕らえられて、柳沼は夢中で足掻いた。
足掻いて足掻いて、大声で喚いた。
首が折れるかと思うほど乱暴に、頭を引き下げられる。薄汚れた床に頬を押し付けながら、左腕に注射針が吸い込まれていくのを柳沼は見開いた瞳で眺めているしかなかった。
内藤も宇佐美も、柳沼がこんな目に遭っていると理解できるだろうか。知ったところで、彼らが能城より柳沼を選ぶとは思えない。
柳沼がこんなことになったと知れば、あるいは影で嘲笑するようになるのか。
母親の不貞を笑った人間たちのように。
男の慰みものになんてなった柳沼は、きっと笑いものにされるだけだ。誰も、他人の不幸は愉快でしかないのだ。
――ただ一人、柳沼を訪ねてきてくれた小野塚を除いては。
「っ・ぃ……っア、嫌だ……っ! 助け、」
小野塚。
届くはずもない名前を叫ぼうとした瞬間、大きく開いた柳沼の唇に若い男の性器がねじ込まれた。喉の奥までツバメの味を含んだものを押し込まれて、柳沼はえづくことしかできない。
幼い日に、カーテンの隙間から覗き見た小野塚の姿を思い出す。
何度チャイムを鳴らしても姿を見せない柳沼を、小野塚は何時間も玄関先で待っていた。
小野塚。
呼びかけようとしても、あの時も、今も、柳沼はその名前を呼ぶことはできなかった。
永遠に。