PRESENT(5)
腰を捕まれて動けない俺の下肢から、ざわざわと淫蕩な疼きが立ち上ってくる。尻を振って強請りたいのに、それを許してもらえなくて俺はいやいやと首を振った。
「そうなの?じゃあもっと、……ぐちゅぐちゅに捏ねくり回して良い?」
俺の腰を抑えたまま純が躰を傾けた。床の上に、俺の躰を横向きにゆっくりと押し倒す。片足を抱え上げられたまま躰を重ねると、挿入しやすくて、腰を抑えられた俺でも尻を突き出すと純に強請ることが出来た。
「してっ……! してっ・頭がおかしくなるー……っン!」
横から抱きすくめられるような形で純は俺に口付け、抑えた腰を乱暴に回転させながら一度引いた腰をずぶりと奥まで穿ち入れた。
熱く盛った肌に床の温度が心地良いと思ったのは一瞬で、純の凶器が俺の腹を突き刺すととてもそんなこと思う余裕がなかった。直ぐに床の上は俺達の汗や汁や唾液で濡れてしまったし、それが冷める間もなくどんどん熱くなっていった。
グラインドすると床の上で摺り上がりそうになる俺の躰を、強姦でもするかのように力強く押さえ込んで、純は夢中で俺の中を貪った。ぐぶぐぶ・ぐぶと襞の奥までカリを潜らせ、ずぶちゅずぶちゅと尻穴を捲り上げさせながら太いチンコを出し入れさせた。
「やァ・ああっすごいすごいすごい……ッ・! やンやんもう・だめになっちゃ……ァ……う・ゆるしてもう……っイク、イク、……死んじゃうー……ッ……!」
頭まで犯されているかのような痺れに、俺は気が狂ったように嬌声を上げた。俺の前からはもう殆どザーメンのような白い汁が飛び散っていて、このまま俺はどうかしちゃうんじゃないだろうかと思った。気が遠くなりそうになるのを堪えるので精一杯で、俺は純のセックスが前から死ぬほど良いと思っていたし好きだったけど、こんなに中枢を犯されているような気になるのは初めてだった。
「……そんなに、もっとして欲しいの?」
恍惚としてしまって純の姿すら映せない俺の目に、俺が今朝着ることが出来なかった一張羅が映ったような気がした。でも直ぐに、純の低い濡れた囁き声に意識が向いてしまう。俺は、反射的に頷いたような気がした。
もっと欲しい、もっと欲しい。これ以上なんて有り得ないような快感の孝実にいるようでも、これよりももっと。
純と一つになって、もう解けなくなるような、深い結合を。
「ひっ、ィ……っ! や・ん……ッ……やぁ、あああ、あァぁっぁあ・ああ……ッ!」
目が覚めると、純の姿はなかった。
ヤることヤって用が済んだら他の男と誕生日を過ごす気か?
俺は到底動きそうもない体を横たえたまま心の中で苦虫を噛み潰した。俺も良い思い出来たんだし、あんなのされたら俺は第二回戦は考えただけでゲップが出そうなくらい無理だし、まぁ半日以上は俺が純を独占できたんだから良いとするか。
……しかし純はあんな凄いのしといて他の男とまたやってるんだろうか。
「………」
しばらく考え込んで、純ならやりかねないと思い直した。むしろ余裕かもしれない。あいつの種が尽きるところを見てみたいものだ。
俺はあんまり叫びすぎた喉を潤すためにミネラルウォーターが欲しくなって、軋む腰に鞭打って身を起こした。
「……ん?」
思わず一人言が漏れる。
しっかりベッドの上に寝かせてもらったようだ。
黙って頭を掻く。時折気まぐれのようにツボを押さえた優しさを垣間見せる、純らしい所業だと思った。それが、俺が一応「恋人」だからそうしてくれるのかそれとも誰に対してもそうなのか、俺にはよく判らない。判らないことが不安になることもあるけど、今は不安を感じている余裕もない。
とにかく体中が泥のように重い。誕生日ってことで爺と呼ばれないように、俺はまだこんなに若いんだぞというアピールだったんだろうか。ハリキリ爺め…。
キッチンまで辿り着くだけで至難の業だ。ベッドに寝かせはしてくれても中出しした分までは処理してってくれなかったらしい。当たり前だが。
「っつー……」
ようやく手にすることが出来たミネラルウォーターを一口、口に運んで喉を潤すと人心地ついた俺の耳に小さな水音が聞こえてきた。
「…………」
耳を澄ます。
まさか純がシャワーを浴びた後、水を止めずに帰ったとは考え難い。
倒れてたりしたらどうしよう。いや本当にこれはシャワーの音だろうか。
ぐるぐると考えはするものの思考に躰が追いつかない俺がじっと佇んでいるとやがてその音は止まった。蛇口を閉める音とともに。
「……純?」
恐る恐る呼びかけると、しばらく経ってからバスルームの扉を開いて純が顔を覗かせた。
「何だ、まだいんの」
ちょっと吃驚したけど、俺が気を失っていた時間は自分で思うほど長くなかったのかもしれない。
……でも、俺が居ない間に居なくなってくれてた方が有り難かったというのが本音だ。純が余所の男の所に行くのは仕方がないことだと思っていても、目の前で行かれるのはやっぱりしんどい。純が俺だけのものじゃないと判ってるつもりでも、引き留めたくなる。
「酷いなぁ」
バスタオルを頭に掛けた純が一度頭を引っ込めて半裸の躰を廊下に出す。……あぁ、俺も全裸じゃないか。
「何、帰って欲しいわけ?折角の誕生日を祝ってくれる気ゼロ?」
俺は自分の汚れた躰を見下ろしていた顔を、純の言葉を聞いた後しばらくしてから仰向けた。
「は?何、今日は余所に行かないのか?折角の誕生日なのに?」
怪訝な顔をして純を見上げる俺の視線と、同じく怪訝そうな純の視線が噛み合った。
窓の外はもう夕暮れを通り越して夜になりかけている。ハッテンしに行くなら今頃からで十分楽しめるだろうし、他の男の家に行くならそれこそ今から行くべきだろうし。
「……まさか今日はずっとココにいるつもりか?」
言ってから、変な台詞だと思った。
普通、恋人の部屋に来てセックスをしたあと他の男のところへ行くなんて奴はいない。そんなの純くらいのものだ。もちろん純だって毎回毎回そうしてるわけじゃないけど――でも。
「いちゃいけない?」
純は髪から滴り落ちる雫をタオルで扱き拭いながら眉根を寄せた。不機嫌になりそうには見えない。ただ、俺の言うことを変だとでも思ってるんだろう。俺だって変だと思う、でもそれは純の日頃の行いの所為だ。
「いけないわけじゃないけど――……」
言い淀んだ俺の脇を通り抜けて純はリビングへと足を向けた。勝手知ったる他人の家という感じだ。そんなに毎日のように会えるわけでもないのに、純は俺の部屋に馴染んでいる。それが嬉しいようでもあり、また、純は何処の男の家でもこうなのかも知れないと思うと少し気が滅入る。
「変なの」
テレビのリモコンに手を伸ばして純は俺を振り返りもせずに言う。その純の背中を暫く呆然と見詰めていると、不意に純が俺を振り返った。
「誕生日にはプレゼントが付きものでしょう」
図々しくのたまう。でもプレゼントなら食事の前にあげた筈だ。俺はますます混乱して、重い体を冷蔵庫に預けたまま言葉もなく立ち尽くした。
「何やってんの、早くシャワー浴びておいで。……今の内に体をほぐしておかないと、後で泣いても知らないよ」
まぁどうせ雅は直ぐ泣いちゃうけどね、と純は付け加えながら視線をテレビへ戻した。
プレゼントって、
「……、純」
まさか。
あまりにも恐ろしくて言葉を告げずにいる俺を無視して、純はテレビに見入っている。
「あのー、……純?」
猫撫で声を出して、冷蔵庫を離れ体を引き摺るようにしてリビングの純へと歩み寄る。
「まだ立って歩いてられるんだから、大丈夫でしょ?」
顔はテレビに向けられていて見えないけど、意地の悪い――性質の悪い悪戯っ子のような笑顔が目に見えるような声が帰って来た。
「いや、もう本当勘弁」
断りの言葉を言い終えないうちに振り向きざま純の腕が俺の足首を捕らえた。そのまま引き寄せられて、バランスを崩した俺は床の上にしゃがみこんで、気付くと純に組み敷かれていた。
「嫌っていうのはシテってことだっけね」
一気に間近に寄ってきた純の唇が笑う。
「……キスして良い?って今訊けよ……」
その表情から視線を逸らした俺の唇に純の吐息が掛かる。わざとうんざりした口調を心掛けたのに、純にはこれっぽっちも効いていないようだ。重ねられた体が熱い。純の指先がするりと掠めるように俺の乳首を撫でた。
「雅、……キスして良い?」
テレビの音も掻き消すような囁き声に、俺は目蓋を震わせながらゆっくりと伏せる。
恋人の誕生日プレゼントは思った以上に贅沢なものになりそうだ。
「――……良いよ」